◾︎お宮参りの産着に施される「背守り」の由来と意味について
背守りとは、お宮参りの産着など子どもの着物に施す刺繍を指します。古くは鎌倉時代まで遡り、江戸〜昭和初期にかけて子どもの健やかな成長を願う魔除けとして親しまれていました。古来より人の霊魂は背中に宿っていて、着物の背筋にある縫い目が「目」の役割を担い、忍び寄る魔を祓って身を守ってくれると信じられてきました。
大人の着物とは異なり、子どもの着物は背中に縫い目の無い「一つ身」と呼ばれる仕立てのため、背縫いの代わりに母の手で刺繍を縫う背守りが施されてきました。医療技術が発達した現代に比べ、昔は生まれた子どもが無事に成長していくことは奇跡のようなことであり、子どもの命はとても儚いものでした。
お宮参り自体も子どもの成長を願う行事ではありますが、身につける産着の絵柄や模様、背守りなど細部に至るところまで子どもを想う母の愛と願いが込められていたのです。
◾︎「背守り」の種類とそれぞれに込められた子を想う母の願い
背守りには様々な種類があり、その縫い方や絵柄、模様は多岐にわたります。それぞれに意味があり、男児・女児によっても変わってきます。子どもを守るために一針一針に祈りを込めて縫われる背守りについて、詳しくご紹介していきます!
●糸じるし
着物の背中部分に松葉のように縦と斜めに糸を縫いつける背守りを「糸じるし」と呼びます。お宮参りに着用する産着の場合は、12ヶ月1年を意味して針を12回入れます。
男児か女児かによって縫い方が異なり、一般的には男児の場合は雄針で縦7針・左斜め5針を小刻みに縫い、女児の場合は雌針で縦7針・右斜め5針を大刻みに縫います。使用する糸は紅白、または5色(青・黄・赤・白・黒)とされています。
●背紋飾り
着物の襟の後ろに模様や絵柄、布や紐を縫う背守りは「背紋飾り」と呼ばれ、そのデザインは数えきれないほどあります。麻の木は成長が早くしっかりと大地に根を張り丈夫に育つことから、子どもの成長を願い麻の葉模様をあしらったり、長寿を意味する吉祥文様の鶴、魔除けの印である五芒星・六芒星など、それぞれに込められた意味は様々です。
複雑な模様を縫うのは難しく感じますが、背守りの見本帳や練習帳を元に分かりやすく解説された書籍や動画も多くありますので、ぜひ参考にしてみて下さい。
●紐飾り
背守りとは位置が異なりますが、お宮参りで着用される産着では「紐飾り」と呼ばれる飾り縫いも施されます。紐飾りは、産着の表側にある布紐に縫いこまれる模様で、縁起が良いとされる熨斗(のし)や扇子、兜などの絵柄を紅白の糸で刺繍します。
魔除けのために背中に「目」をつける背守りと同じように、紐飾りには「迷子のお守り」としての役目があると伝えられています。紐飾りの縫い糸を少し残しておくことで、もし迷子になって悪いものに糸を引っ張られて捕まりそうになっても、糸だけが着物から抜けるので捕まらずに済む、という意味があるそうです。
◾︎お宮参りだけじゃない!おしゃれに可愛く「背守り」を取り入れる
主にお宮参りの産着で使われることの多い背守りですが、最近ではそのおしゃれで可愛らしいデザインから普段使いする赤ちゃんの肌着や子どものTシャツに背守りを縫いつける方も多いようです。先に述べたように、背守りを入れることで子どもの健やかな成長を願うとともに、動物や花など子どもが好む柄を選んで名前付けのような目印にすることもできます。
縫い方を分かりやすく紹介して伝統を受け継いでいこうとワークショップなども多く開催されています。裁縫に自信がないという方でも、必要な道具や図案がひとまとめになったキットや、絵柄が既に縫われているアップリケで気軽に楽しむことができます。
◾︎昔も今も変わらない「背守り」に込められた願いを大切に
時代とともに様式が変化していっても、お宮参りを行う意味や背守りに込められた願いは変わりません。生まれてきた子どもを守り、そして立派に成長していくように祈りながら一針一針を大切に縫っていく。とても素敵な親心だと思いませんか?
赤ちゃんが生まれてから続いていくお宮参りやお食い初めなどの行事は、分からないことも多くつい形式的になってしまいがちではありますが、ひとつひとつの由来や意味を理解すればより子どもへの愛も深まります。あっという間に過ぎ去ってしまう成長著しい時期であるからこそ、子どもとともに過ごす日々を大切にして下さい。