天使のささやきの日
家族写真(ファミリーフォト)
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[ INTERVIEW:01 ]
「にゃあ~っ!」 おはようと声をかけるとおはようと返ってくる。 朝ごはんをあげるために扉を開けると 「にゃんにゃんにゃんにゃんっ♪」と 小走りで朝の支度をしているわたしの元へやってきては お腹を出してなでて~と言う。 トラはご飯よりわたしのことが大好きだった。 あまりにもアピールが熱烈なので 支度の手を止めしょうがないなあと なでるのが日課だった────。
今日はトラの火葬の日
死と向き合うこの日に撮影するという行為は
世間一般的には正しいのかわからないけど
わたしの中では正しいと思ってお願いをした。
雨予報だった今日
朝からどんよりしていて部屋の中も気持ちも暗かった。
写真を撮り始めるとどんどん晴れて行き
綺麗な光が差し込んだ。
その光が抱っこしているトラちゃんに降り注ぎ
まるで天国までの道標のような光の線ができていた。
たくさん撫でた。
たくさん抱きしめた。
トラは硬く冷たいはずなのに
なぜか撫でていると暖かくなる。
生きていた時より重く感じるその体は
命を重さを伝えてくれているようだった。
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[ INTERVIEW:02 ]
先に天国にいるパパの元へ間違えずに辿り着くように パパの仏壇に飾っているお揃いのお花を持たせた。 チューリップのブラックヒーローとリューココリーネ ブラックヒーローの花言葉は「永遠の愛」 リューココリーネは2/17の誕生花 買った当初は花言葉など全く調べず トラちゃんに合いそうな花を選んだ。 後で調べたら花言葉すらも今日にピッタリなものだった。
火葬までに最期のブラッシングをし、
トラちゃんを寝かせ、周りにお花を置いた。
本当に急だったので家にある段ボールで作った簡易棺。
せめてもの償いでお花いっぱいにしてあげた。
そこに入れたお花は
スイートピーとスプレーマムと白のアリウム、
そしてパパと出会うための目印としての
ブラックヒーローとリューココリーネ。
棺に入れる3つのお花はななちゃんが選んでくれた。
スイートピーの花言葉は「優しい思い出」「わたしを忘れないで」
スプレーマムの花言葉は「あなたを愛します」
白のアリウムの花言葉は「無限の悲しみ」
スイートピーだけはななちゃんが花言葉を知っていて、
絶対入れたいと選んでくれた。
でもその他のお花はお花屋さんでトラちゃんに似合うお花を選んだだけ。花言葉を後で調べたら全てのお花が
今日のための花言葉を持った花たちだった。
無意識に引き寄せられていたようだ。
「今日は天使のささやき記念日です」
出発する時、ナビが教えてくれた。
雪の壁に挟まれ、通行止めになっている
ばあちゃんちの前の道路に火葬車が待っていてくれていた。
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[ INTERVIEW:03 ]
お線香をあげ、火葬が始まった。 もう二度と撫でられないんだ... もう二度と抱きしめてあげられないんだ... そう思ったら涙が止まらなかった────。
雨がぱらつく中、火葬が終わった。
トラちゃんのお骨あげができたのは嬉しかった。
歯までしっかり残っていた。可愛いちっちゃな歯。
お骨あげをしている間は雨が止んでいた。
腕の中に収まってしまうほど小さくなったトラ。
その骨壷はかすかに温かくて、
まるでトラちゃんを抱っこしているようだった。
おうちに帰ってハイドと対面した。
状況がわかっているのか少し寂しそうに
骨壷の匂いを嗅いだり、トラを探したりしていた。
そのあとは1人になりたかったのか、
いつもは見えるところに寝るのに、こたつに入りたがった。
きっとハイドが1番寂しいに決まってる。
骨壷はパパの隣に置いてあげた。
あともう少しでまたふたり仲良く暮らせるね。
おうちに着いて小さな花が落ちているのに気がついた。
トラにお供えしたはずの赤と白のスプレーマム。
ふと花言葉を調べた。
スプレーマムの花言葉は「あなたを愛します」
赤のスプレーマムの花言葉は「愛情」
白のスプレーマムの花言葉は「真実」
落ちていたのは赤と白のマーブルのスプレーマム。
「真実の愛情」
トラちゃんからのプレゼントだと思った。
私たちのために残していってくれたのかな。
そう思ったら我慢していた涙が溢れた。
どれだけ過ごした日々が短くても
涙が出るということは、
最期の幸せな瞬間で、
それだけ愛し、愛されていた証拠。
私たちもまた、愛されていた。
静かすぎる翌日の朝。
私たちは今日もまた「トラちゃんおはよう」と声をかける。
ママからのトラちゃんへ
---トラちゃんと最初に会ったのはわたしが幼少期を過ごしたパパのお家だったね。君との距離は常に3メートル。一度も触れたことすらなくて、パパにしか懐いていないThe野良一筋みたいな猫ちゃんだったね。パパが余命わずかと宣告され、入院を繰り返し、体が病に蝕まれていていく中で、トラのことばかり心配で何度も外出許可をもらって帰ってきてたね。トラもパパがなかなか帰ってこなくて別人かと思うくらい激痩せしたね。パパが亡くなる1週間前、やっと我が家に来たね。最初も少し距離があったね。パパが亡くなってからだったかな?トラがお腹を見せてなでて〜!と鳴くようになったのは。あれから7ヶ月。三度の飯よりママが好き!なトラちゃんになって、本当に嬉しかったんだよ。もっと早くに気づいてあげられなくてごめんね。最期の瞬間まで一緒にいてやれなくてごめんね。こんなママでよかったら、生まれ変わってでもいいし、乗り移ってでもいいから、またママの腕の中に戻ってきてね。大切な時間をありがとう。
僕からトラちゃんへ
---トラちゃん昨年の7月にいきなり我が家に連れて来られて戸惑ったよね。ごめんね。最初は警戒してて触ろうとすると顔を背けてたね、段々慣れてきて最終的はお腹撫でさせてくれるようになって凄く嬉しかったよ。トラちゃんのご飯の準備やトイレ掃除をする機会が多かったけど、トラちゃんのお家から出す度に君はママのところに「にゃんにゃんにゃん」って言いながら走って行くから少し寂しかったぞ!生まれ変わってまた我が家に来たら真っ先にこっちに来てね!もう少し早く病院に連れて行ってたら少しだけ君とまだ一緒に居れたのかな…
最期の瞬間、大好きなママを呼び止めて一緒に居させてあげれなくてごめんね。7ヶ月間ありがとう。君が我が家に来てくれたおかげでお家がとっても賑やかだったよ。スプレーマム、プレゼントしてくれてありがとう。大好きだよ。また会おうね。
ハイドへ
ハイドにとって、トラちゃんはどんな子だったかな?体が大きいからこそ少し誤解されやすいあなたは、実は世話好きなお兄ちゃんなのを知ってるよ。
きっとトラのこと弟のことのように思ってたよね。
1番傷つき、寂しいのはハイドだよね。
気持ちの整理がつくまで、いくらでもお膝の上に寝ていいからね、ママたちはどこにも行かないからね。安心してね。
ななちゃんへ
「状況は当日まで分かりません、でも依頼したいです」
そう思い切って連絡してよかった。その一言に尽きます。
トラちゃんが来てから、何度もハイドとの写真撮って欲しいねえと言っていて、まさかそれが最期になると思ってもみなかった。
パパの遺影も撮ってくれたのが本当に嬉しかった。
我が家に来た人達の中で、パパのことを気にかけてくれる人なんていなかったから。
前日の夜から一緒にいてくれて急な依頼にも嫌な顔せず、一緒に泣いてくれたななちゃん。
「私の写真を見せたいというより、ずほ家の最期の家族写真を見てほしいなって私は思う!」
とこのアルバムを見た時に人はどう思うか、意図せぬ伝わり方にならないか、「最期の出張撮影」に対してどうしたらポジティブに捉えてくれるか....
1日中一緒に考えてくれたななちゃん。
ななちゃんに言ってみてよかった。
本当の意味でペットとその飼い主に寄り添えるカメラマンはななちゃんが唯一無二です。ありがとうじゃ足りないです。この想い、どうしたら伝わりますか...?ずほより
ななさんへ
急な依頼で、しかも遠い所なのに快く引き受けてくれてありがとうございます。撮影を通してななさんだからこその提案や切り取り方、納品した写真を見て本当にななさんにお願いしてよかったと思いました。本当にありがとうございました。次はハイドが主役で撮影お願いします。ぎょより
トラは猫白血病キャリアでした。
隔離をして過ごしてました。
感染はしても、発症せず長生きし、生涯を終える猫もいると知り、きっとトラもそうだろうと希望を持っていました。
亡くなった後、動物病院の先生から血液検査の結果、猫白血病を発症していたと聞きました。
そして先生が、どれだけ早く病院へ連れてきても助からなかったと教えてくれました。(猫白血病に現在治療法はなく、進行を遅くすることしかできないから)
今回の撮影がどう思われるかは分かりませんが、私たちは後悔していません。むしろ撮ってよかった、命に向き合える大切な時間だったと思います。
Date: 2025/2